大阪の街を離れ東京に住み始めてもう何年も経つが、なぜか───それはたとえば拭い去れぬ血の巡りあわせか───折に触れては関西に滞在する機会の多い生活を送っている。しかし生まれ育った街であるとはいえ、複雑な出自の関係によってこの街に“実家”と呼べるような場所がある身ではないため、この1月などは帰省だとか何とか言いながら月の半分以上を大阪で過ごしているにも関わらず、そのすべての宿泊がビジネスホテルである状態で、いやはや地元に帰ってきているのだか出征に来ているのだか、ベッドシーツの肌感覚からしてよくわからない。一体どの駅で降りて、どの商店街を歩いても笑えたり笑えなかったりするエピソードが売るほどある故郷なのに、その街の中にここと定まった自分の居場所がないというのは不思議におもしろい感覚で、夜中になるとつい宿をこそこそと抜け出し、寝静まった(または全く眠る気配のない)大阪の街をあちらこちらと徘徊するのが癖になってしまっている。こういう根無し草のような人間をフランス語では「デラシネ」と呼んだりするそうだが、関西弁にそんな洒落た言葉はない。あるのは「ヨソモン(余所者)」か、さもなくば「ツレ(友達)」だけだ。大阪の住人たちにとって、俺はそのどちらなのだろう。そんなことをぼんやりと、考えるともなしにとりあえず歩いて、答えは着いた場所にいる人たちに決めてもらうことにしている。
JR大阪環状線における最大のターミナルである大阪駅のひとつ隣に福島という小さな駅がある。この駅に何があるかというと、まあたいていの場合、朝日放送(ABC)があるよ、とか、こぢんまりした乙な酒場が多いよ、とか、オフィス街でランチの営業が豊富だよ、あたりの話になるのがお定まりなのだが、俺はここ福島の駅前にある“聖天通商店街(しょうてんどおりしょうてんがい)”の周辺にとある郷愁があって、楽曲の歌詞にも勝手に登場させたりしている。浦江聖天(うらえしょうてん)の名で親しまれた了徳院という寺への参詣道として発展したことから名付けられたこの商店街は、どういう由来があるのか“占い”が名物で───大方、聖天通商店街、という駄洒落チックな地名から、売る/売らない(占い)、といった駄洒落の重ね掛けを面白がったのであろうと想像する───、実際に商店街のあちこちに“売れても占い商店街!!”というキャッチコピーのノボリがあがりまくっており、如何にも節操がないというか取りとめがないというか端的に言うとスベっている気さえする。しかしこれらのギャグの何とも言えぬ“お茶の間”な温度感に妙な安心感を覚えてしまう自分がいるのもまた事実だから仕方がない。取りとめなさのついでに言えば、この聖天通商店街は駅前すぐにある入り口の巨大なアーチに始まり、町並みのあちこちに等間隔に立つ街灯の形に至るまでが何故かことごとく“UFO”を象った形になっている。寺や占いと円盤状の未確認飛行物体の間にどういった関連があるのかというのは個人的に長年の謎で、おおかた昔この商店街を立ち上げたメンバーのひとりにちょっとデンパな変わり者のオッサンがおり、自分以外の面々が街灯のデザインなぞに無関心なのをいいことに自分のデンパな宇宙趣味を好き勝手に反映させたのであろう、くらいに思っていたのだが、今回の帰阪で福島駅周辺を散策していてこの謎のモチーフのアーチを見るともなしに眺めているとUFOの下に漢字で「遊歩」と書かれていることにはたと気づいて点と点が繋がった。どうやらこの商店街は地域みんなの遊歩道(UFO道)であると言いたいらしい。聖天/商店、売る/占い、のあとにUFO道を眺めるとこれは誰かひとりのデンパな暴走によるものではなくちゃんとした合議のもとに決まったデザインなのだろうなと思えてくるから不思議だ。みんなが何となく遊歩道のことをふざけてUFO道と呼び始める、くらいのところまでは駄洒落のセンスに首は傾げつつもまあ理解はできるが、そこから間違いなく特注であろう巨大なUFO型のアーチや街灯までをデザイン・発注し、実際に街に設置してしまうところまで全員が同意してしまうバイタリティがどこから出てくるのかはよくわからない。もしかしたら占いもUFOもただの駄洒落ではなく、その昔、本当にUFOが福島に降り立ったことがあって、そこから降りてきた宇宙人が地元の人たちに特殊な占いを伝えた、というような史実があるのかもしれない。そんな理由でもない限り、この商店街のいびつさには説明がつかないような気がしてくるのだった。
───そういえばかつて僕はこの町でひとりの女の子に出会った。彼女はすこし不思議な性格の持ち主で、それこそ聖天通りのあちこちにあるUFOに乗って空の向こうから来た宇宙人か、さもなくば天使のようだった。少し僕の生活上のだらしなさについてお節介すぎるきらいはあったが、妙に波長が合ったのか、ふたりでしばしばこの辺りをうろついてはくだらない話をしてよく笑ったものだ。互いが隣にさえいれば会話の内容なんて駄洒落でもなんでも良かった。このまま時間が止まってしまえばいいと思ったことさえある。それはおそらく彼女がいつか、やはりUFOか何かに乗ってどこか遠くへ行ってしまうであろうことが、心のどこかで最初からわかっていたからかもしれない。
第三種接近遭遇/PK shampoo

